今ウッドショック(木材不足)による影響で、新築業者が契約書にとある「特約」を入れようとしているのはご存じですか?実はこの特約、とても怖いものなのです。
「特約」とは文字通り『特別な約定(決め事)』です。
「特約」をよく理解せず契約して、後で大きなトラブルになるのは困りますよね?
買主(施主)と売主間(新築業者)の間に仲介が入る場合、新築業者がこの「特約」入れてほしいと言ってきた場合に仲介業者は、中立の立場で内容の再確認と精査をして訂正を求めることが可能です。それが仲介業者の務めです。
しかし、直接の売主と買主(施工業者と施主)の立場だと、「狼と羊」という関係になりますのでそうはいきません。
狼である新築業者の作った「特約」、を羊である買主(施主)が読み、ご自身で判断するしかないためです。

ですから、今回は、過去大手住宅メーカにも勤務し、実家は自ら設計し建替えた、不動産歴20年以上の狼である私が、羊達を守るためにこの「特約」について説明いたします。
結論:特約が新築業者からの一方的な内容になっていないか要確認
先日記事にもしました木材不足の件ですが、2021年12月時点でもまだまだ影響が残っています。

新型コロナウイルスの感染拡大にともない、建築木材だけでなく、世界的な半導体不足の影響、そして生産国である東南アジア地域での新型コロナウイルスの感染者増加に伴って、様々な部品供給が滞っている状況が発生しています。※詳細は別記事で詳しく仮設しています。

これらは新築工事の工程に大きな影響を与え、結果引渡しの遅延に繋がっています。
今後新築を検討しようとしている施主様(買主様)にとっては避けて通れない段階まで来ています。
そんな中、今回一部の大手新築業者が、契約書に、木材不足や設備の生産遅延による工事遅延に対する「特約」の追加を求めているという情報を手にしました。
それだけ新築業者にとっても死活問題なのだと思いますが、その内容のままだと、
施主様(買主様)の住まい計画に大きな影響が出るかもしれない内容だったため、今回記事にしました。
コロナに端を発する、木材不足等は売主側に責任があるとは言い難いとはいえ、「特約」をよく理解せず契約すると、後で大きなトラブルになりますので、現在新築を検討中に方は是非ご一読ください。
特約の内容を読み解く
これは実際に、某新築建売業者が買主側に提案した、「本来契約書にない」特約です。
「新型コロナウイルスに伴う資材の生産遅延の影響」及び「木材供給の減少」により設備や建築資材の供給が滞り、当初の工期に間に合わず、引渡しが遅れることとなった場合、売主は買主に対し速やかに通知のし、引渡し日の延期を求めることができるものとし、買主はこれを承諾することとします。
また、設備によっては、売主の判断で代替品に変更する場合があります。さらに納品の時期が未確定となった設備に関しては、本物件建物の引渡し後に設置となる場合がありますが、買主はこれを承諾の上、本物件を買い受けるものとします。
とある新築業者の特約より
見た感じ、おかしなところは無いと思われるかもしれませんが、よく見るとこれは売主側の一方的な内容になってしまっています。
もちろん「狼」が考えた文章ですから「羊」の買主側がパッと見て気付くのは難しと思います。
ですから、まず解説していきます。
引渡し延長・設備代替え品については、「協議」する内容に
「新型コロナウイルスに伴う資材の生産遅延の影響」及び「木材供給の減少」により設備や建築資材の供給が滞り、①当初の工期に間に合わず、引渡しが遅れることとなった場合、売主は買主に対し速やかに通知をした上で、引渡し日の延期を求めることができるものとし、買主はこれを承諾することとします。
また、設備によっては、②売主の判断で代替品に変更する場合があります。さらに③納品の時期が未確定となった設備に関しては、本物件建物の引渡し後に設置となる場合がありますが、買主はこれを承諾の上、本物件を買い受けるものとします。
①引渡し日の延期:買主側に入居の期限があるのかないのか
この特約だと、一方的に引渡し日が延期されてしまい、その日程によっては買主様の購入した目的が達成できない場合があります。例えば、
- 住み替えの場合に、新築の工事完成が遅れると引っ越し出来ないため、今の家が引き渡せず、違約扱いになったり遅延損害金が発生したりする
- 転勤で移り住むのに、家が完成しないために、ホテル住まいを強いられる
ですから、一方的に、この日が引渡し日に変わりました、と言われても、それでは困る、というケースがあるはずです。
「遅延する日程の期日(遅くともいついつまでには必ず)」や、万が一の時の「解除」権について、十分に確認をする必要があり、少なくとも一方的に延期を求めるのではなく、「協議」する内容でなくてはなりません。
②当初の設備を代替品に変更:「勝手に変更される」で良いのか
この文章だと、勝手に設備の生産が滞っているからと言って、新築業者により違う設備に変えられてしまう事も可能なのです。
代替品としか記載がありませんが、「当初の仕様書と同等グレード」でなければなりませんし、本来AからBに変更するという「協議」する内容であるべきです。
③引渡し後の設備設置:引渡し後の設置に対して、リクスはないか?
この内容だと、極論キッチンやお風呂がないから、とりあえずそのまま引渡しをされて、後で設置します、という事も可能なのです。
それでは生活できませんよね?

本来、新築の完了検査という、完成した証を貰うために検査を受けるのですが、当然「未完成」では完了検査は受けられませんし、完了検査が受けられない場合、最悪融資の実行がされません。
とはいえ昨年のコロナ初期に起きた、設備生産の遅延に対して、国交省も「完了検査の円滑な実施について」回答をしています。
Q:IH及び食洗器の入荷が大幅に遅れたため、未設置の状態で完了検査を受けることは可能でしょうか?
A:当該設備を設置しないことをもって建築基準関係規定に不適合とはならないことから、今回の措置の趣旨に鑑み、支障ないと考えられます。
とはいえ、引渡し後に設置というならば、生活に支障がない設備に限定すべきですし、「買主の同意」が必要です。
まとめ:特約の内容が修正されない場合は、リスクを承知で検討
もしもこういった提案に、新築業者側が同意いただけない場合、つまりこの特約でなければ契約しないという場合には、残念ですが、上記のリスクを十分に理解した上で判断するしかありません。
※一部の新築業者はかなり切羽詰まっていて、指定の「特約」が理解いただけない場合は契約しないというところまで話が実際に出ています。
ただ個人的には施主(買主)側に、一切の権限もなく、一方的に、言われるがままに工期の延期等を決められてしまう契約というのは、とても怖いとは思っています。
またこういった特約でトラブルが実際に起きれば、今後国交省の指導による内容の修正などありえるかもしれませんが、こういった黎明期には、どうしても混乱が生じます。
今から検討する方であれば、まだ間に合います。
新築引渡し遅延による、新築業者からの一方的な「特約」追加に注意してください。
ではまた!