最近ニュースなどでもよく話題に上がる老後資金に関する問題について、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
そんな中、持ち家の新しい老後資金の調達方法として、注目が集まっているのが「リバースモーゲージ」という制度です。
自宅に住み続けながら、その自宅を担保に老後資金を借りることができるという金融商品です。
実はこの制度、以前からあった商品なのですが、銀行が力を入れていなかったため認知されていませんでした。しかし最近になり新しい収益として銀行も力を入れ出した、という流れがあります。
今回は、リバースモーゲージについて、不動産業界で25年勤務している現役不動産屋の私が、この制度を実際に利用した方の声を交えながら、分かりやすく解説していきます。
ご覧いただくとリバースモゲージの仕組み・条件・メリット・デメリット・どんな方が利用すると良いか、が分かります。
リバースモゲージとは自宅に住み続けながら、老後資金を調達できる仕組み
リバースモゲージとは、簡単に言うと現在の自宅を担保として、お金を借りる制度です。
ポイントとしては
・自宅にそのまま住み続けることが出来る
・生きている間は毎月利息のみの支払いでOK
・死亡後に相続人が売却して元金を返済
こういった特徴があります。

自宅に住み続ける事が出来るということは、現在社会問題になっている「空家の増加問題」にも対策にもなるため今後政府によって、このリバースモーゲージは推し進められていくことも予想されています。
リバースモーゲージの流れ
例としてリバースモーゲージを利用し、自宅を担保に3,000万円借りたとします。

その場合、そのまま自宅に住み続けながら、毎月約75,000円ほどの利息だけを払い続けます。
(変動金利2.95%の場合)
これを高いと思うか、そうでないかで大分印象は変わります。
融資金額 | 毎月の利息 |
1,000,000円 | 約2,505円 |
5,000,000円 | 約12,527円 |
10,000,000円 | 約25,054円 |
30,000,000円 | 約75,164円 |
50,000,000円 | 約125,273円 |
数年後にお亡くなりになられた時に、相続人が自宅売却をして(もしくは現金にて)、元金の3,000万円を返済します。

住宅ローンとの違い
住宅ローンでは、最初にお金を借り、金利と現金を数十年にかけて返済していくのですが、リバースモーゲージは亡くなった後に一括して返済することから「逆住宅ローン」とも言われています。
借り入れ可能年齢が50歳以上(一般的な住宅ローンでは20歳以上)であったり、借入期間が終身(一般的な住宅ローンでは最長で35年程度)、毎月の支払いが利息のみ(一般的な住宅ローンでは元金+利息)といった大きな違いがあります。
それでは、そういった利用条件を見ていきます。
リバースモーゲージ利用の条件(金融機関によって異なります)
金融商品ですから、当然利用には条件(制限)があります。
金融機関によって異なりますが、
- 50才以上(同居人の年齢も制限があるケースがあり)
- 年金や給与等安定した収入が必要
- 融資期間は終身
- エリア制限有(マンション不可や地方不可等)
- 相続人全員の承諾が必要
こういった条件があります。
この条件にはメリット・デメリットが含まれていますので解説をしていきます。
リバースモーゲージのメリット
リバースモーゲージのメリットは以下の通りです。
- 自宅に住み続けながら老後資金の借入れができる
- 毎月の支払いは利息のみ
- 元金の返済は、利用者が死亡した際に現金一括または、自宅の売却を選択可能
- 生きている間に繰上返済することも可能
- 利用者が死亡した場合、配偶者が契約を引き継げるケース多し
自宅に住み続けながら老後資金の借入れができる
やはり高齢になると、そう簡単に引っ越しをすることが出来なくなります。
ご近所とのお付き合いや、かかりつけの病院などの事情もありますし、なにより引っ越しには労力と手間がかかります。
しかし自宅に住み続けたまま、老後資金を借り入れすることが出来るため、今までなら自宅を売却するしか主だった資金獲得の方法がなかったのですが、継続して住み続けることが出来ます。
もちろん、引っ越しをしなくても良いことにより、引っ越しにかかる費用が不要になり、退職金や預貯金などのまとまった資金を残しておくことが可能になります。
つまり、居住環境を確保しながら老後資金の減少を遅らせることができるのです。
毎月の支払いは利息のみ
一般的な住宅ローンでは毎月、元金+利息という支払になりますが、リバースモーゲージでは、毎月の支払いは「利息」のみなので、老後生活中の支出を減らすことができます。
支出が減らせる分を旅行や、自分たちのために自由に使う事が可能になります。
元金の返済は、利用者が死亡した際に現金一括または、自宅の売却を選択可能
利用者の直接のメリットではありませんが、死亡時に相続人(達)は必ずしも売却をしなければならないわけではなく、現金にて返済をすることも可能です。
自宅に思い入れがある場合は売却をせずに残すことも可能です。
生きている間に繰上返済することも可能
借入期間中であっても、何らかの資金的な余裕が出来た場合には、繰り上げ返済をすることも可能です。
この辺りは住宅ローンと変わりはありません。
利用者が死亡した場合、配偶者が契約を引き継げるケース多し
利用者(例えばご主人)が死亡した場合でも、多くの金融機関では配偶者がそのリバースモーゲージの契約を引き継げるようにしているため、「契約者が死亡して、配偶者の住むところがなくなる」、といったリスクを回避できます。
リバースモーゲージのデメリット
メリットがあれば、当然デメリットもあります。
- 相続人全員の承諾が必要
- 不動産の担保(借入可能)評価は通常売却時の40~50%程度
- 長生きすればするほど、融資限度額まで資金を使い切った時のリスク
- 自宅の価値が下落すれば、融資限度額の見直しがされるリスク
- 変動金利のみのため、金利変動リスク
- 利用できる物件のエリア(種別)に制限あり
- 団体信用生命保険に加入できない
相続人全員の承諾が必要
リバースモーゲージを利用するという事は原則
「子供たちに不動産は残さない」
という意思表示でもあります。

もちろん親の所有物になりますので、本来はどうしようと親の自由ですが、不動産という大きな金額に関わる資産となると、相続の中で大きなウエイトを占めることになります。
子供たち(≒相続人)に理解があり、老後の資金調達手法として理解が得られれば良いのですが、リバースモーゲージの仕組み上、ほとんどの場合において、利用者の死亡後、不動産を相続人達で売却をして返済をしなければなりません。
もちろん
売却額>借入額
になれば少しでも資産として残るかもしれませんが、先のことは誰にも分かりません。
万が一、
借入額>売却額
になれば、追加で資金を出して返済をしなければならなくなるかもしれないのです。
いつ死亡するかもわかりませんし、いつ売却出来るかも分かりません。
ですから、リバースモーゲージを利用する場合においての一番のハードルはこの
「相続人全員の承諾」になります。
相続プランに対し、相続人全員にしっかりと理解をしてもらうことが必要になります。
不動産の担保評価は売却時の40~50%程度
一般に査定した場合の査定額と比較しても、借り入れが出来る額は大体40~50%だと言われています。
これは、金融機関は自宅を担保しており、利用者の死亡後、売却によって資金を返済してもらう形になるため、経年劣化や、使用損耗による建物評価の減額分などを想定すると当然現時点での売却額と同じ金額を貸し出すことは出来ないのです。
では売却して、老後資金を獲得すればいいのか、という話においては、引っ越し(住み替えや賃貸)が絡んできますので、どちらを優先する人生設計なのか、というお話になります。
なお、自宅を売却(買取)した後も、賃料を支払い続けることにより、自宅に住み続けることのできる『リースバック』という仕組みもあります。
しかし、利益構造上よっぽど吟味しないと大切な老後資金を絞り取られますよ、という話を別記事にしてありますので、合わせてご覧下さい。

長生きすればするほど、融資限度額まで資金を使い切った時のリスク
長生きするのは良い事です。
しかしリバースモーゲージでは長生きすればするほど、最初に設定された融資限度額まで資金を使ってしまうというリスクがあります。

どういうことかということを、先ほどの例で言いますと
担保価値は6,000万円の不動産で、リバースモーゲージを利用して60才の時に3,000万円借りました。利息は毎月75,000円程です。
利息だけで1年間の支払いは900,000円です。
10年間は金利が変わらないとしても合計利息は9,000,000万円になります。
もし金利が上がったとしてさらに15年で21,000,000万円の利息の支払いになった場合、
つまり85才の時に
900+2,100+3,000 = 6,000
借入金+利息 > 担保評価
となり、場合によってはその時点で融資が打ち切られ、即時返済、つまり売却を求められることもあり得るのです。(実際は担保評価も年々下がっていくことも考えると実際はもっと早く)
不動産の価値下落による、融資限度額見直しリスク
生きている間に不動産の価値が下落すれば、融資限度額の見直しがされるリスクがあります。
例えば近所で地滑りが起きた、液状化が起きた、世間をにぎわすような大きな事件が起きた、などといった場合に、融資限度額が見直される、といったこともあり得ます。
上記の長生きリスクと合わせて、突然融資が打ち切れる、というのが考えられる最悪のケースだと思われます。
変動金利のみのため、金利変動リスクがある
リバースモーゲージでは、毎月利息だけの支払いで良いとはいえ、変動金利のため月々の利息返済額が変わる、というか上昇するリスクがあります。
返済額が増えれば家計を圧迫してしまう事になりかねません。
例えば楽天銀行では2021年7月現在2.95%の金利ですが、今後はどうなるかは分かりません。
利用できる物件のエリアに制限がある場合が多い
リバースモーゲージとは銀行からするととどのつまり、回収できるかどうか、つまり売却出来るかどうかというところが焦点となります。
ですから、都市部ならともかく、地方の担保価値が低いエリアでは対応していなかったり、対応していたとしても厳しい条件がついたりと厳しく見られます。
またマンションも対応外のところが多くあります。
意外に思われるかもしれませんが、土地の担保評価をメインとしているため、土地の持ち分をほとんど持たないマンションは都心部以外では対象外となるケースもあります。
団体信用生命保険に加入できない
通常の住宅ローンでは団信に加入することにより、死亡時などにローンを返済することができるますが、リバースモーゲージでは死亡時に相続人が売却して返済する仕組み上、対象外になってしまいます。
リースバックとリバースモゲージの違いについて
リースバックとリバースモーゲージ、よく似ていいる文字面ですが、中身は(もちろん)違います。
非常に簡単に違いを述べると、
リバースモゲージは「銀行(金融庁)が考えた金融商品」
リースバックは「不動産屋が考えたサービス」
ということです。
銀行が上で、不動産屋が下で、といったことを言うつもりはありませんが、これをみてどうご覧になられますでしょうか。
リースバックについて、その仕組みや危険性については別記事で述べています。合わせてご覧下さい。

まとめ:リバースモーゲージはどういう人が利用するとよい?
メリット・デメリットを述べてきましたが、具体的にどういった人が利用すると良いのでしょうか。
今まで話してきた内容を元にまとめます。
老後の資金に不安がある人
既に自宅を所有しており、住むところには困らない一方で預貯金が少なく、老後に使えるお金に不安があるという人も少なくありません。
担保評価と金利のバランスをよく見て、上記のデメリットを上回るメリットがあるようでしたら一度ご検討ください。
いざというときのために資金を確保しておきたい人
老後資金は準備できているけれども、それでも何が起こるか分からない世の中です。
いざというときに備えて余分に資金を持っておきたいという人もいるでしょう。
他にも「旅行などを楽しみたい」、「病気や介護が必要になるときのために資金を確保しておきたい」など理由はさまざまです。そういった人はリバースモーゲージを利用することで、老後資金の減少を抑えることができます。
相続人がいない、自宅を残す必要がない人
先ほどデメリットで最大の難関ポイントは「相続人全員の承諾」だと言いましたが、相続人がそもそもいないケースの場合は、当てはまりません。
最もリバースモーゲージが有効に使えるケースではないでしょうか。
リタイア後の生活の充実を重視することが出来ます。
最終的に老人ホームや介護施設等で暮らすことを考えている人
子どもが遠くに離れている場合は、自宅で暮らすよりも世話(介護)をしてくれる人がいる老人ホームや介護施設に移りたいという人もいると思います。

しかし、一般的に老人ホームの入居費用は高いと言われていますので、そういった場合にリバースモーゲージを利用すれば、まとまった資金を得ることが出来、入居費用の一時金に充てることもできます。
もちろん、施設に行くために自宅を売る人もいますが、年に何度か家族が集まれるように自宅は残しておきたいと考える人もいると思いますので、「自分が生きている間は自宅を手放したくない」とか、「将来は老人ホームで暮らそうと考えている」という人には適しているでしょう。
自宅をリフォームしたい人
自宅をリフォームしたいけど、その資金がない、という場合にも有効です。
借り入れをしてリフォームすることにより、快適に暮らせますし、最後売却する際にも査定上有利に働くことがあり得ます。
可能限り長く、充実したした老後を過ごせるのが理想なのですが、少子高齢化の状況を踏まえると、長生きが資金面でリスクとなり得ることが懸念されています。
リバースモーゲージの仕組みやメリット・デメリットをしっかりと把握したうえで、充実した老後の生活のためにぜひ参考にして下さい。
持ち家派と賃貸派、どちらが良いという話は永遠のテーマですが、今回は持ち家派ならではでの老後の新しい資金調達方法のお話でした。
ではまた!