「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」
この本は鈴木忠平という元スポーツ記者が目にした、落合監督と、その周囲にいた多くの選手やスタッフ、スポーツ記者の証言をもとに書かれた、壮大で濃密な「落合(元)監督」のノンフィクションであり、また、当時のスポーツ記者や報道を含む「伝える側のストーリー」でもあります。
落合監督を様々な証言やエピソードからひも解く歴史教科書
この本では、年ごとに特定の選手にフォーカスをあて、そのエピソードをもとに落合監督が語られます。
一例をあげると
2004年 川崎健次郎
2005年 森野将彦
2006年 福留孝介
2009年 吉見一見
2010年 和田一浩
2011年 荒木雅博
などなど、年毎に一人の選手にスポットを当てながら、落合監督とのストーリーが進んでいきます。
現在YouTubeやTVで、主に当時の選手から落合監督について語られているのを目にすることが出来ます。しかしそれらは当たり前ですが一方からの視点です。
そして落合博満自身の著書に「采配」という本もあります。
こちらは主に落合監督の視点。
さらにいうと当時の参謀、森繁和の著書「参謀」という本もあり、これは当時落合監督に一番近かった立場の人間からみた落合監督。
それぞれ違う視点とはいえ、これらを見ていたので、正直最初私は

もう知っているエピソードばかりなんじゃ、、
なんて思っていたのですが、ここ1か月位、NumberWebでこの本関連の記事が続々と目に留まるようになり、その一部が垣間見、その濃密さと、最近ではあまり目にしなくなっていた「本物の文章」の数々を見て、重い腰が上がったのでした。
今回の「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」は、選手・監督・スタッフ・当時の伝える側のエピソードをミックスさせ、更にそこにこの筆者が見聞きした内容が合わさり、時系列を追いながら語られていきます。
「まさにこれぞNumber」というスポーツノンフィクション好きには堪らない内容になっています。
あまりにも分厚い、スポーツノンフィクションのハードスタイル

そしてなんと言っても大きな特徴があります。この本は手にとって初めて分かったのですが、とにかく分厚い。

おわかりいただけたでしょうか。これぞハードカバー。
比較のために、なんとなく不動産関係の本と並べてみました。

比較しても分厚いのです、かなりのボリュームなのです。476ページもあります。
このボリュームは小松成美さんの「誇り」や「鼓動」(ともに中田英寿)のハードカバーよりも分厚いのではないでしょうか。※というか今ソフトカバー出ているのですね、、
今手元になくて比べられないのが悔しいです、、、、
お風呂で気軽に読もうかな、なんてやっていると腕が疲れてきます。濡れないように気を使いながら読むと腕が吊りそうになり、本の下半分しか支えられなくなります。
カバンに入れて、、なんてやっていると場所も取りますし、何より重たくなります。
筋トレか何かですか?
というわけでハードカバー特有のある程度の「覚悟」がないと読めない類の本でもあります。
まるで落合監督から「俺のことを本当に知りたいのか?」と「覚悟」を問われているかのようです、、
立浪監督と落合監督
いくつか知っていたエピソードや文章もありましたが、それでも読んでいて目頭が熱くなるエピソードもいくつもあります。
とくに今年中日ドラゴンズの監督に就任した「立浪監督」の当時の「落合監督」下でのエピソードは、それだけで買った価値があったな、と思うくらい当時の様子や雰囲気が匂い立つような熱量を感じることが出来ました。
当時、選手として過渡期に差し掛かっていた立浪選手。
ドラゴンズの聖域としてアンタッチャブルだった立浪選手の僅かな衰えを観た落合監督が下したスタメン落ちの決断。
落合監督から一言の説明のなかった立浪選手の叫び、慟哭のシーンは胸に突き刺さりるものがありました。
こういったエピソードを知って立浪監督の今後の采配や言動に注目するとより「立浪ドラゴンズ」を楽しめるはずです。
まとめ:スポーツノンフィクションの形をした「リーダー論」である
沢山の「落合評」がありますが、この本は決定版といってもいいのではないかな、と勝手に思っています。
「采配」の時もそうでしたが、落合監督の言動や考えは、つまるところ「リーダー論」に突き当たります。しかしそれは決して簡単に真似をすることの出来ないリーダ論でもあります。
結果は出ても万人に理解されず、孤独だが至高のリーダー論であるように感じます。
理想のリーダー論でありながら、ほとんどの人間には実行できないはずです。
それだけ「常識」や「慣例・慣習」に立ち向かう落合博満の凄さが如実に浮かび上がるのです。
「采配」とも違う、落合監督に関わった選手や伝える側からみた落合監督、落合フリークにも新たな発見がある内容だと思います。そして筆者の鈴木忠平の成長ストーリーでもあるところが相乗効果となって落合監督の人間性を補完していきます。
純粋なスポーツノンフィクション、ドキュメンタリーであるとともに、これはビジネス書でもあると思います。
これから何度も何度も読んでいく本として、手元に長く置いておく事になりそうです。
ありがとう鈴木忠平さん。
ではまた!